【逸見雄一さん】日本の古民家を精巧な模型作品にして後世に残していきたい

茅葺屋根や囲炉裏に仏壇までをも精巧に再現した古民家を展示「哀愁のふるさと館」

名勝・天然記念物に登録されている景勝地長瀞からほど近く、国道40号沿いに、「哀愁のふるさと館」はあります。一見すると平屋の民家のようにも見えるこの展示館は、日本でも類を見ない、超精巧な古民家模型を数多く展示する古民家展示館なのです。その館長である逸見雄一さんは、50年間にもわたって一心不乱に古民家の模型を作り続けてきました。華美な装飾や派手な宣伝には一切興味がないような、ある意味「道」を追求する求道者のような佇まいを見せる逸見雄一さんに、今回、第8回プラチナエイジ夢フェスティバル<プラチナ賞>受賞のインタビューを行い、お話をお伺いしました。

子供のころからものづくりがお好きだったとのことですが、最初はどんなものを作っていたのですか?
最初はプラモデルからなんですけれども、お寺とか神社のほか、バイク、自転車、飛行機や戦車、乗り物を作っていましたね。でもプラモデルの戦車だと動かないからつまらないし、飛行機も空を飛ばないのがつまらなくて、動くものがいいなと思ったんですよね。
でも子供だから改造もできなくて、その頃からだんだんお寺や神社を中心になっていきました。歴史が好きで、特に日本史が好きだったのでね。

子供の頃から歴史好きだったんですね。
だから大人になって作った作品で金閣寺があるんですけれども、いちばん大きいので檜で1mくらい、扉も何もぜんぶ動くように作ったものがあるんです。

総檜造りで1mもの大きさの金閣寺ですか!?
そうです。でも、自分の興味がお寺から民家に移っていったので、欲しい人がいたらあげようと思ったんですけど、あまりにも大きすぎるから誰も持っていかないんですよ。確かに家に置く所もないだろうしね。

その後、その金閣寺はどうされたんですか?
燃やしてしまいました。でも、そうしたらその後に「欲しかった」という人が出ましてね。もう少し待っていれば良かったなと思いましたよ。

古民家にこれほど熱中するようになったのはどうしてですか?
どんどんなくなっていくからですね。最初は写真に撮って残していたんですよ。全国の珍しい民家をまわって、望遠レンズとかいろんなレンズを使って、たくさん撮りました。私、写真部だったんですよ。キヤノンのカメラを使ってて。
でも、写真だけ撮ってもつまらなくなってくるんですよ。例えば藤原家だと部屋数もすごくあるんだけど、表も裏も中も外も全部を写真に撮ったとしても、それを並べたらどこの写真か分からなくなっちゃいますよね。だったら立体的に作ってしまえばいいと。扉もふすまも同じように作れば、実際に動かすこともできるし、見てくれる人も喜んでくれると。そう思ったんです。

古民家の魅力はどういうところなのでしょうか?
日本だと古民家といってもいろんな形があるんですよ。それが面白いですね。自分が知っているだけで、東北から沖縄までで31種類あります。実際にはもっとあると思いますよ。

古民家に種類があって分類できるなんて、初めて知りました。
あと、一軒一軒が微妙に違うんですよ。だから飽きることがないですね。ただ、いまはもう茅葺きの屋根が作れなくなってきているから、職人も何人もいたのがいなくなっちゃったから、そういう古民家は本当に珍しいものになって来ていますよね。ただ、茨城とか栃木に茅葺きの専門学校がありますから、職人が増えていくといいなとは思います。

会社に行かずに模型作りに没頭するのは大変なことだったと思います。
最初は会社員で、もらった給料の中から材料を買って作っていたんです。でも、たまたま親父が交通事故に遭って保険金が出て、それを資金に使わせてもらえるようになったんですおね。それで大きな作品も作れるようになりました。

ということはご家族のご理解も当時からあったわけですね?
実は私の作品を見て、すごい方々が見に来てたんですよ。日本医科大学の医学博士とか、芸術協会の会長とか、そういう方が来て親父を説得してくれたんです。これほどのものを作れる技術があるなら、もっとやらせてあげればもっとすごい作品を作れるからと、親父に言ってくれたんですね。でも、もし保険金がなかったとしても、土地がいっぱいあるからそれを売ってでも作品を作ってたと思いますよ。
あと、昔、調子が良かった頃は東京で個展を開いたこともあるんだけど、16000人が来てくれました。テレビ局も取材に来たし、大変な騒ぎでしたね。

すごいですね。ところで現在は作品の販売はされているんですか?
子供の小遣いで買えるくらいのものは売ってますよ。1000円とか2000円とか。道の駅に置いてある2000円の作品はよく出ますね。お土産に人気で。あと、大物の作品だと3億、いちばん大きいので30億。

3億円、30億円って、本当ですか?
それくらい、30億でも売れない作品ということです。お金じゃないんですよ。お金のために作ったんじゃなくて、残すために作ってるんです。お金のために作るなら、見えないところで手抜きしますよ。でもそうじゃない、残すために作っているから売れないんです。自分の子供のようなもので、売れるよりもたくさんの人に見てもらいたいんです。

たくさんの人に見てもらうことが大切だと。
うちは入館料が500円で、いろんな人が来てくれますけど、何人かで来てサーッと見て帰るんじゃ作った意味がないんです。でも、1人で来てもその人が1時間も2時間もじっくり見てくれたら、そのほうが本当に嬉しいです。だから、お金じゃないんです。

見てくれる人にはどんなことを感じてほしいと思われますか?
いまは古民家が少なくなってきているから、昔を懐かしむことがあまりないと思うんですよ。重要文化財とかで残っているものもありますけど、あれは人が住んでいないでしょ。ということはそれは抜け殻なんですよ。でも、私の作品は家の中にある道具とか扉や天井までも、全部作る。そこに住んでいたことを感じさせるくらいに細かく作るから、見る人によっては懐かしくて涙する人もいます。そういうのを感じてほしいですね。

2023年の12月には、10分の1の大きさの作品が完成します。初めて私のオリジナルで作る理想の古民家、それも廃屋を作るんですが、それは建物の中もしっかり見てもらえるように作っています。さすがに、少なくなってきてるといっても、実際に人が住んでいる古民家に「中を見せてください」って言っても無理だからね。こんど作ってるのはちゃんと中を見て、感じてもらえるようにしますよ。

本物と同じだからこそ見る価値があるということですね。
そうですね。風呂場からは湯気が出たり、煙突や囲炉裏から煙が出たり、戸の開け締めもできるから本当の生活感があるんですよ。仏壇も作るし、中には位牌も置くし、戒名までちゃんと書いてあります。材料も実際の家に使うもので作ってますから、全部本物なんですよ。

いちばんの喜びは何でしょうか?
お客さんが喜んでくれるのがいちばん嬉しいですですね。喜んでくれる姿をもっと見たくて、どうやったらもっと喜んでくれるかなと思いながら作っていった先に、これは家の中だと気づけて。それでさらに喜んでもらえるようになったというのはあります。

これからの夢を教えてください。
これから古民家を残そうとすると、重要文化財になったりとか、人が住んでいるところも茅葺き屋根じゃなくてトタン屋根に変わっていってるんです。まあ屋根は仕方ないにしても、中に入れば最新のテレビがあって、庭先には車も停まってる。でも、その家が作られた昔の時代にはそういうのってなかったんですよね。だから、数十年前に作られた当時の懐かしさをいかに再現できるか。どんどん古民家がなくなっていく前に、できる限り作品に作って残していきたいと思います。

【編集後記】
「古民家に対する熱い情熱と溢れ出る思いがひしひしと伝わってくる」。インタビューをさせていただいたあとに思った感想はただひたすらにこの一点でした。
インタビューにあるとおり、逸見さんは子供の頃からものづくりに没頭し、リアリティを追求するようになりました。その姿勢はまさに一心不乱、とにかく本物を、とにかく精巧に、とにかく伝わるようにと、寸暇を惜しんで制作を続けてこられました。「じっくり見てほしいんだよ」そうおっしゃる言葉の裏側に、どれほどの思いが込められているかが伝わります。
そして実際に実物を拝見すると、模型のはずなのに本当の原寸大の家を観ているような錯覚に陥るほど、細部に渡って徹底されたリアリティが伝わってきます。何より、どの模型も実際にそこに人が暮らしていたものなので、確かな生活感が感じられるのです。まさに古民家模型の第一人者、自分の夢だけを脇目も振らずに追求する姿は、プラチナ賞にふさわしい生き方でした。
プラチナエイジ振興協会はこれからも逸見雄一さん応援してまいります。

(インタビュー・文/安 憲二郎

本記事に関する連絡先:プラチナエイジ振興協会事務局
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