「32年間の刑事の経験を活かして小説を書き、地域と共に歩んでいきたい」

行政書士
大場良明さん(74歳)

殺人・強盗事件を担当する強行犯捜査の後に、告訴・告発・詐欺・横領等を担当する知能捜査に専従、数々の事件の捜査に当たった本刑事の大場さんは、その経験を活かし、現在は刑事告発専門の行政書士として活動しています。その傍ら、民生委員や成年後見人、振り込め詐欺防止活動など様々な分野に取り組み、著名なビジネス誌や有名テレビ番組ご出演のご経験もあり、ますますエネルギッシュにご活躍されています。

今回は、第7回プラチナエイジ夢フェスティバル<プラチナ賞>受賞のインタビューを行い、お話を伺いました。

警察官になられたわけですが、子供の頃から正義感が強かったのですか?
大場さん:そういうわけではなかったんです。警察官になろうと思った動機は、「バークにまかせろ」というアメリカのテレビドラマがありまして、主人公のバークはロサンゼルス市警の殺人課の刑事なんです。でも、大富豪なんですよ。バーク役の声優が若山弦蔵さん、運転手ヘンリー役の声優が愛川欽也さんで、非常に面白いドラマだったんでした。

それで、バークが女性を誘ってベッドインしようとすると、必ずそのタイミングで事件が起こる。仕方なくバークは大急ぎで出かけていって、45分間で事件を解決して戻ってくるというストーリーなんですけれども、これに憧れちゃったんですよね。

私の家系は小田原北条氏の家来だったんですが、そこから分家で分かれていって貧乏だったんです。父親も仕事はしていたんですが健康を害してしまったこともあって、テレビもやっと買えたようなものだった。そこで見たバークに憧れて、刑事っていいな、大富豪っていいなと思ったんです。

刑事で大富豪、それは確かに憧れますね!
大場さん:ところが実際(刑事に)なってみたら大間違いでね。どれくらい違ったかというと、私は大学に行くのに浪人していて、そのとき1週間全部アルバイトをしていたんです。家庭教師とゴルフ場の掛け持ちで週7日働いて月6万円のお給料だったんですけれども、警察に入ったら月5万円でした(笑)。だいぶ大富豪とはかけ離れていましたね。

確かにかけ離れていますね。それにドラマのような華やかさではなく、地道なことのほうが多かったと思うのですが。
大場さん:そうですね。でも、人生にはいろんなことがあって、私、学生のときにデモに参加したことがあったんです。青竹を前にしていろいろやったんですが、警察官になって訓練をしたら、昔デモに参加していた経験が役に立つんですよ。どういうふうに動いてくるから、どういうふうに止めればいいかが分かるというか。

結局、ドラマのような大富豪ではないけれども、そういうことを経て私自身も都民に親しまれるとか、都民を守るという意識は強くなっていったと思います。

交番勤務、看守係の後に強行犯捜査に携わったわけですが、ここではドラマのような事件を扱っていたんですよね。
大場さん:はい。殺人とか放火とか、そういう事件です。

その後は告発、詐欺、横領等を担当する知能捜査に専従されました。
大場さん:40歳のときに警視庁本部の捜査二課に異動になりまして、そこからは汚職事件担当になりました。これは非常に自分に合っていて、18年在籍しましたね。仕事をやりながら遊びを入れるというか、楽しみながらやるのが合っていたんです。

警察の仕事に遊びを入れるとはどういうことなのですか?
大場さん:例えば、人間は親しくなるには飲食を共にすることなんですけれども、それが仕事になるということです。情報を持っている人と会って、「国を傾けるような悪いことをしている人はいないか?」と尋ねるんです。そうすると、善意のある人たちと少しずつ繋がりができていって、教えてもらえるんですよね。

つまり人と人との信頼関係です。一人一人と会って付き合いを築いていくんです。当時から続いてる関係もありますし、贈収賄で逮捕した人がいるわけですけれども、その人といまもお付き合いが続いているんですよ。

ご自分が逮捕した人と、いまなおお付き合いがあるということですか?
大場さん:ええ、そうです。これも人間関係ですよね。

守秘義務で言えない部分もあるかと思うので、こちらで想像いたしますが、ようするに逮捕された人も、そのときにはすでに大場さんと信頼関係があって「大場さん、お世話になります」「おう、一緒に更生していこうな」というような、そんな関係なんですか?
大場さん:はい、そういうことです。というのも、最初に自分が強行犯係になったときに、先輩刑事に言われたことがあるんですよ。「被疑者を立ち直らせることが刑事のいちばんの仕事じゃないか」ということをね。

なるほど、確かにそのとおりですね。
大場さん:犯罪を憎むのは当然だけれども、被疑者を立ち直らせることが大事なんだと言われましてね。昔のことですけれども、逮捕されて裁判になると警察署から東京拘置所に移送されるんですが、その移送のときに私は妻におにぎりを握ってもらって、それを被疑者に食べさせてやって、見送ってたんです。

もちろんいまは利益誘導ということで禁じられていますが、昔はそういうことも許されていたので、先輩から教わってね。私もやっていました。

まさにドラマのようなシーンですね。ご自身でも刑事ドラマなどはご覧になっていたのですか?
大場さん:「相棒」は観ていないんですが、私が好きだったのは「古畑任三郎」シリーズでしたね。あと「踊る大捜査線」も観ました。あの作品は警察関係者が監修していたので現実味があるんですよ。

ドラマに出てくるように、上級職というのはあるんです。私たちは地方公務員から始まりますが、国家公務員から始まる人もいて、捜査二課などにいる監理官はみんな上級職なんですよ。でも、私はそういう方ともずっと仲良くやっていましたね。いまでもお付き合いはありますよ。階級による上下関係は私は感じませんでした。

被疑者と被害者の両方を見てこられたと思うんですが、人間のいろいろな面を感じてこられましたよね。
大場さん:はい。犯罪を犯した人にも人間性があって、それを表に出してもらって、ちゃんと反省してもらうんですよ。

あるとき暴力団関係者の男を殺人事件で逮捕したんですが、当時はまだ決まりも緩くて取調室で面会をさせていたんです。そうしたら、逮捕した男の奥さんが来て、その場で歌を歌うんですよ。それを聞いた男もね、涙を流すんです。大の大人の、ヤクザ者がね。

だからやっぱり人間は本来は善人じゃないかと思うんです。それが何かのきっかけで罪を犯してしまうだけで。

そういうことが本当にあるんですね。
大場さん:ある贈収賄事件のときも、私は取り調べで役人側のほうを担当していたんですが、その役人の方も国家公務員で地位が高くて、国立大学を出て優秀な人だったんです。そして、その地位に就くまでに相当な努力をしているんですよね。

だから私は、取り調べでもその人の全てを否定することはしないんです。その地位にたどり着くまでたくさんの努力をして、でも1つだけその中に誤りがあって、お金を貰ってしまったということなんですね。そしてそれは悪いよねということで。

それと、ドラマでよくある「お前のことは全部分かってるんだ!」みたいなことも言いません。絶対に全部分かるわけがないんです。あなたのことで、一部悪いことは知っている、でもいいところも一部知っている、今日はその一部悪いことについてお聞きします、というように言うんです。

現在は行政書士として様々な活動をされていますが、大事にされていることはありますか?
大場さん:私は刑事告訴専門でやっているんですが、いま問題なのは高齢者に対する成年後見人です。いかに地域で高齢者を救い、守っていくかが課題なんですね。地域福祉というやつです。

定年退職後は民間企業で法務監査室担当部長をやったんですが、刑事のときに比べると身体を動かしての仕事が少なくて、半年で辞めたんです。そして行政書士になったんですが、始めてすぐに民生委員をやらないかとお声掛けいただきました。

実は私、50歳のクラス会のときに、小学校の担任だった先生から「いまの君たちは地域の活動もないだろうけど、定年退職したら地域との交流を持ちなさい」と言われていたんです。実際、その先生も民生委員をやっていらしてね、そう言われたのを思い出したんですよ。そこで自分も民生委員をやろうと思って始めたんです。

なるほど、それで地域密着の活動をしてく中で、成年後見人制度に着目されたのですね。
大場さん:成年後見人はね、通常は70歳までなんです。さらに、成年後見人とご本人とは20歳離れてないといけない。ところが私は74歳で後見人を依頼されたんです。

市役所から頼まれたんですが、話を聞くとご本人がお金を使い込まれていたりとか、被害が出ていると。でも、年齢制限があるからどうだろうと思っていたら、裁判所からOKが出て、お受けすることになったんですよ。

なので、だいたい私のところに話が来るのは、なんらかのトラブルがある人たちが多いですね。

過去のご経験、ご経歴だからこそですね。
大場さん:あとは地域の活動でいうと、「おれおれ、俺だよ」っていう振り込め詐欺ですね。その被害防止活動もやっていて、これは所ジョージさんのテレビ番組「所さんの目がテン」にも出演したんですが、自分は大丈夫だと思っている人でも騙されてしまうんです。

こういうときは、まずは「おれおれ」と名乗っている息子本人に直接電話で確かめるのがいい。詐欺犯は、必ず「こういう理由でいま携帯を持ってないんだ、だからこの電話でかけてるんだ」と言いますから。それを本人の携帯に電話して確認しなさいねと言っています。

これから先、どんなことをやっていきたいとお考えでしょうか。
大場さん:悔いを残さないで生きる、これが私の基本なんです。いつ死んでもいいから、自分のやりたいことをやるようにしています。
そしてこれからは、いままでの経験に基づいたものを本として出していきたいと考えています。

実は私が刑事のときに実際に扱った銀行強盗の事件を原作にした漫画がありまして、こういうのも出したことがあるんですよ。パトカーで現場に急行しようとしたら、車7台にぶつけちゃった話なんです。

パトカーで車7台にぶつかったんですか?
大場さん:そうなんですよ。私がパトカーを運転していたんですけれども、脇道に入ったらガタガタガタって7台にぶつけちゃったんです。ところがその後、偶然にも犯人に出くわして逮捕できたっていう話です。

それこそドラマのような話ですが、本当なんですか?
大場さん:はい。このときは甲州街道が大渋滞していまして、急ごうと思ったら7台にぶつかっちゃったんです。その時点でもう現場到着が40分くらい遅れていたんですが、実はそのとき犯人は先着したパトカーの包囲網を抜け出ていたんですね。それが偶然にも私のパトカーの前で出くわして、逮捕したんです。

大手柄ですね!
大場さん:始末書が警視総監賞になりました(笑)。

でも、ぶつけてしまった7台の車はどうなったんですか?
大場さん:そのとき私の階級は巡査で、隣には警部が乗っていたんです。それで警部が一人ひとりに名刺を出して「すいません、いま事件中で」と謝りながら、名前と車のナンバーを控えてました。そうしたら車の持ち主の皆さんも「いいですいいです、車のことは後でいいですから」って言ってくださって。でも、こっちの捜査車両は7台もぶつけたもんだから使えなくなったんですけどね。

それもまたドラマのようなオチですね。では、これから出していきたい本はこういうような、ある種エンターテインメントな内容なんですか?
大場さん:そうですね、そういうものを出していきたいと思います。あとはこちらの「コトレシピ」という本、いまはもう廃刊になりましたがどうしたら詐欺を防止できるかという記事を書いたり、週刊ダイヤモンドでは「元刑事が明かす取り調べの五箇条〜営業にも使えるホシの落とし方」なんて記事も書いていただいたりしました。こういうようなこともまとめて、小説を書いてみたいなと思います。

それでは最後に、60歳を迎えてプラチナエイジになった方々へのメッセージをお願いします。
大場さん:自分の経験を活かして生きるといいのではないでしょうか。私も刑事という経験から行政書士になってこういう仕事をしていますが、過去の経験がそのまま活かされているんですよね。

会社勤めだった人が農業を始めるものいいですが、自分の経験という資産に応じて生きるということです。

私も行政書士になるとき、中学生の同級生で一級建築士の者などいろいろいるんですが、「どうやってお客さんを集めたらいいんだ?」と聞いたことがあるんです。そうしたら「まずは人間関係からだ」と言うんですよ。それで私も「じゃあ現職だったときと同じく、人間関係を大事にすればいいんだ」と思ってね、いまに至っています。

あとは家族を大事にするということです。私と同じような年代だととにかく仕事だなんて時代でしたが、やっぱり家族を大事にするのがいいと思います。

刑事で様々な事件を担当して、その後は地域に密着され、やはり最後に大切なのはいちばん身近な家族ということですね。たくさんのお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。これからもますますご活躍ください。
大場さん:こちらこそ、ありがとうございました。

【編集後記】
オンライン会議システムを用いてお話を伺っていたのですが、画面越しにもその優しいお人柄がダイレクトに伝わってきました。私たちの日常生活では想像もつかないような、リアルな犯罪の現場に30年以上も身を賭してきたとは思えない柔和な表情に、大場さんが歩んでこられた日々の重さが実感されます。
また大場さんは、行政書士や民生委員以外にも
・日本ボクシング連盟倫理資格審査会委員
・(社)伝統文化交流協会常務理事
・(社)日本ペンクラブ会員
・東京家政大学 放課後デイサービス苦情対策委員会委員
・鵜ノ木ほたるを飛ばそう会代表
(一部抜粋)
など、様々な活動をされています。
中でもホタルの活動では、地域にお住まいの幅広い年代の方々が毎年たくさん集まって、みんなでホタルを眺めているそうです。
「私はね、頼まれたらよほどのことがない限り、どんなお仕事もお受けするんです」
そういってにっこり笑う大場さんを、プラチナエイジ振興協会はこれからも応援していきます。
(インタビュー・文/安 憲二郎

本記事に関する連絡先:プラチナエイジ振興協会事務局
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