「多くの人に癒やしを感じてもらえるような、後世に残る絵を描き続けていきたい」
日本最高齢の現役銭湯絵師
丸山清人さん
1934年9月1日生まれの丸山清人さんは、絵を描くことが大好きで、18歳のときに叔父であり師匠である故・丸山喜久男氏に弟子入り。
日本でも3人しかいないと言われる現役銭湯絵師として活躍されています。
日本人の多くが銭湯で目にするあの大きな富士山の絵は、特に奥深いテーマだそうで、いまだに研鑽が必要なのだそう。
今回は、お電話にてインタビューを行いましたが、穏やかな笑顔とお人柄が伝わってきて、体がほっこり温まるようなお話を伺うことができました。
インターネットに出ている記事や、動画で実際に絵を描いていらっしゃる様子など拝見させていただきました。
丸山さん:私の記事とか結構出てるんですか? そういうのは娘に全部管理してもらってるので、私は全然知らないんです。
丸山さんの記事を拝読して感じたのですが、本当に絵を描くのがお好きなんですね。
丸山さん:はい、そうなんです。とにかく絵を描くことが好きですね。だから仕事が楽しくて仕方がないんです。銭湯絵師は天職だと思ってやっています。なんせ、これ一筋ですから。18歳の時に師匠である叔父に弟子入りして、そこからもう60年ですね。
60年はすごいですね。記事を拝読してもうひとつ印象的だったのは、丸山さんの笑顔がとても素敵なんです。好きなことをやっているからこそだと思いますが、丸山さんは絵の仕事をやることに迷いはありませんでしたか?
丸山さん:そうですね、私は迷いというのは全くなかったです。小さいときから絵を描くことが大好きでしたから。それに、親戚が広告会社やってましたからね。「どうだ、うちで働いてみないか?」と誘われて、迷いなくこの道を選びました。それからずーっと銭湯絵師一筋でここまで来ました。
そういう経緯だったんですね。
丸山さん:はい。大変は大変ですけれども、絵を描くことが好きなもんでね。「好きこそ物の上手なれ」ですね。
なるほど。好きというのは情熱のいちばん最初にある部分だと思います。丸山さんは、絵を描いていてどんなところが面白いと思いますか?
丸山さん:描いた後の達成感ですよね。完成した後に皆さんがどう思うか、どう評価してくれるのか。「うまくいったな」「今日はダメだな」とか、そういうことを考えながら描いています。
背景画は、修正ができないんですよね?
丸山さん:そうなんです。でも背景画というのは、消される運命なんですよ。昔は毎年描き換えてましたから。背景画は消される運命でね。現場のお風呂屋さんの中には、20枚とか30枚絵が入っているんですけど、描き換えるためには消さなきゃいけない。そういうことも兼ねて思いますが、ある意味ロマンですよ。消される運命というのは、残念は残念なんですけどね。
これだけの絵を毎年描き替えるというのは、大変な作業ですね。
丸山さん:そうですね。全盛期は、日曜日以外は毎日描いていました。昔は縄張りみたいなものがあって、うちの会社の担当してるお風呂屋さんが結構ありましてね。だから全盛期のときは、絵描きが2組いたんです。2組で毎日描いてました。なんせ1年で描き換えだから、そりゃあ、うんと忙しかったんですよ。
完成までどのくらいの時間をかけて描くんですか?
丸山さん:昔は営業前に仕上げなきゃいけなかったんですよ。銭湯の開店時間は14時からだったり、15時からだったり、お店によってまちまちだったんです。全盛期は朝早く行って、営業前の14時には仕上げる。そんな流れでした。その当時は2人体制でやってましたから、だいたい片方で2時間。両方で4時間くらい。5時間はかからないかな?
2時間から3時間で描いてしまうんですか?
丸山さん:そうしないと間に合わない。全盛期のときは銭湯が開くのを外でお客さんが待ってるんですよ。だから女湯から描き始めてましたね。男湯は足場を片付けたりしているときに、いくらかお客さん入って来ても大丈夫なので。
ということは、入ってきたお客さんの反応も見ることができたと。
丸山さん:見れました。「おぉ~」とかね「わぁ、キレイだねー」って言ってもらいましたよ。嬉しかったですね。そういうのを想像しながら描いているんですけど、実際にその場で聞けるのは嬉しかったですよ。
記事でも拝見しましたが、絵が上手な孫娘さんとお仕事をされることもあるんですか?
丸山さん:たまに手伝ってもらってます。今は美術大学に通っているんですが、今年卒業予定なんですよ。孫と仕事ができるなんて、こんなに嬉しいことはないです。いまは就職も大変みたいなので、卒業した後も手伝いに来るんじゃないですかね。
おじいちゃんからみてお孫さんの絵の腕前はいかがですか?
丸山さん:孫娘は、腕前がすごくいいんですよ。最近は、「浮世絵を描いてください」っていう依頼が多いんです。なので葛飾北斎みたいな浮世絵ありますよね? そういうのを描くんです。孫娘には、建物の絵を描かせています。遠くにある建物とか、手前にある建物とか。そういうのを描かせてるんですが、結構うまいんですよ。あとは人物の絵ですね。私は人物の絵はダメなんですが、孫娘は人物の絵を描かせたら感心するほどうまいんです。
そうしたら、奥様とお孫さんと3人で仕事することもあるんですね。
丸山さん:一緒にやっている孫は次女の娘なんですが、娘婿にも手伝ってもらって家族総出ですね。3世代でできて楽しいですよ。
「楽しい」というキーワードが出ましたが、どうしたらそんなに笑顔で楽しい人生を送れるのでしょうか。老け込んでしまう人と、そうでない人と別れると思うのですが、丸山さんは違いは何だと思いますか?
丸山さん: 家に閉じこもって、何にもやらないからじゃないですか? 仕事でも趣味でも、何かやりたいことを持っている人が楽しい人生なのかなって私は思いますけど。私は仕事もあって、そのほかに年に2回くらい個展もやっているんです。なので、私は老け込むなんて感じはないですね。「次はこういうのを描こう」とか意欲もありますしね。老け込んでしまう人は、家の中でぼーっとしているから老け込んじゃうんじゃないんでしょうかね。
夢というのは何かを掲げて追いかけていくことだと思いますが、丸山さんは「自分の夢はこれだ」と思ったことはありますか?
丸山さん:うーん、やっぱり絵を描くことですね。それで、後世にいい絵を残していく。子どもたちにいい絵を残していきたいですね。
後世に残るいい絵を描くことが、いまの夢だと。
丸山さん:そうです。皆さんに贈ろうかなと。一生懸命描いて、子どもたちにいい絵を残していきたいなと思ってます。
ある意味、夢は叶いつづけている人生だと思いますが、改めてこれから先を考えると、後世の子どもたちにいい絵を残していきたいということなんですね。
丸山さん:はい、そういうことだと思います。ここまできた達成感もありますし、ここまでやってきたという自負もありますけれどもね。
絵を見た人に、こんな気持ちになってもらいたいという想いや願いはありますか?
丸山さん:私の描いた絵で癒されてほしいと思っています。近所の人や友達に、私が描いた絵をプレゼントしたりもしますけど、「いつもこれ見てるよ、すごく癒しになるよ」と言われたり、また、それを友人宅で見た人にも、「この絵素敵ねって言われると私まで嬉しいのよ」って言ってもらえたりするんですよ。そう言ってもらえるとやっぱり嬉しいですね。
丸山さんの公式ホームページで描いた絵を拝見しましたが、空の青や海の青がとても素敵ですね。本当に癒しだと思います。
丸山さん:そうですか、嬉しいですね。ありがとうございます。
絵にお人柄が出ているというか、丸山さんの絵はすごく優しくて、見ていて穏やかな気持ちになります。
丸山さん:ありがとうございます。背景画は明るく描かなきゃいけないので、暗くならないように気を付けて描いてます。みんな、癒しにお風呂で来るわけですからね。そういう面は気を付けて描いてますよ。
最近は、老人ホームや介護センター、いろいろな場所で絵を描くことが多いということですが、活動の幅が広がってらっしゃるんですね。
丸山さん:そうなんです。結構広がってるんですよね。もう歳なのでそんなにいっぱいは活動は出来ないんですが、これからも一生懸命やっていこうとは思っています。そうはいっても、体との勝負ですけどね。
体との勝負、そうですよね。食事など、健康面で気を付けていることはありますか?
丸山さん:食事は普通なんです。ただ、椎間板ヘルニアをやってしまって半年ほど休んだことがあったので。それがちょこちょこ今も出てきますね。だから無理は出来ないんですが、昔から仕事しているときは辛いとは思わないんです。だからそれぐらいこの仕事が大好きなんでしょうね。辞めようとは思わないんですよ。
じゃあ、引退ということは考えていないんですか?
丸山さん:そうですね。考えたことないですね。私は生涯現役でいきたいんです。刷毛を持ったままコロンと逝きたい。そんなふうに願っています。
生涯現役、素敵なお言葉をいただきました。それが丸山さんの本望なんですね。
丸山さん: あとどのくらいできるかわからないですけどね。今のところ、そう考えて過ごしています。でも、無理は絶対しないほうがいいですよね。私の好きな言葉で「楽(らく)して無理しろ」っていうのがあるんですよ。どこかで本か何かで見たんですけれども、うまいこと書いてあるなって思って。
「楽して無理しろ」とはどういう意味でしょうか。
丸山さん:休み休みやれってことじゃないですかね。無理せずにやって、一生懸命やれってことじゃないですか。よくわからないけれども、自分としてはいい言葉だなと思っています。この言葉、好きなんです。
なるほど、わかりました。それでは最後に、60代になった方々にメッセージをお願いできますでしょうか。
丸山さん:そんな大層なことはないけれども、趣味でもなんでもいいですから、一生懸命に向かって行くことがいいんじゃないですかね。なんせ家に閉じこもったらダメですよ。とにかく動いて、目的を持って進んで行くっていう意欲があればいいと思います。うまいこと言えないけど、趣味でも仕事でもいいと思うので、何でも集中して目的をもってやってほしいですね。
ありがとうございます。今後も丸山さんのご活動を応援しております。
丸山さん:こちらこそ、どうもありがとうございました。
【編集後記】
銭湯に行くと、目の前に飛び込んでくる大きな絵。それをわずか2〜3時間で描き上げるというのは口で言うほどに簡単な仕事ではありません。
しかし、丸山さんのお話から伝わってくるのは、とにかく絵を描くのが大好きだということ、そして、この仕事を本当に楽しんでいるということ。
「好きこそものの上手なれ」を、こんなにも気持ちよく、生き方として実践されている丸山さんは、やはりプラチナエイジストの輝きを持っておられました。
見る人にいい気分になって、癒やしを感じてほしいという気持ちで、今日も筆を取る丸山さん。プラチナエイジ振興協会はこれからも応援してまいります。
(インタビュー/安 憲二郎、文/小河内 梓)
本記事に関する連絡先:プラチナエイジ振興協会事務局
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