「悔しいけど楽しいよって生きたほうがいいよね」

モデル:久保京子さん


2016年度、第2回プラチナエイジ授賞式・ファッション部門プラチナエイジストの久保京子さん。
  
美容師として社会へ出る直前にモデルの仕事でスカウトされ、そのままモデルの道へ。多くの雑誌の表紙を飾りながら活躍の場を広げ、32歳からは女優としてもドラマや映画に出演。現在はCM出演、コラムの連載、江戸川大学客員教授などのほか、商品開発やブランドプロデュースなども手がけ、幅広く活躍されています。
        
今回、久保さんは2016年のファッション部門プラチナエイジスト受賞をきっかけに、プラチナエイジ振興協会の協賛企業でもあるクロヌドゥール・ジュエリー株式会社と新商品の開発でコラボレーションし、プラチナエイジに相応しい洗練されたルーペ「CHOU CHOU (シュシュ)」をプロデュースされました。
        
都内の星付きレストランで関係者を御招待して行われたお披露目ランチ会のあと、宿泊先のホテルにインタビュー場所を移し、クロヌドゥール・ジュエリー株式会社 専務取締役 兼ルーペコリエ統括プロデューサー 内波佳世子さんにも同席いただいて、「CHOU CHOU」誕生のストーリーや、様々な仕事を手がける久保京子さんのお人柄に迫りました。



<目次>
  1. 「CHOU CHOU(シュシュ)」誕生のストーリー
  2. アイデアは口に出す! 久保京子流プロデュース
  3. 思ったらやる。理由は後付けでも、何でもやってみる。
  4. モデルとしての下積み、そして「LEE」メインモデルへ
  5. 些細なことも喜び。仲間は同志。
  6. ルーペコリエ公式サイト CHOU CHOU ページ



1.「CHOU CHOU(シュシュ)」誕生のストーリー


ーー今回、久保さんはクロヌドゥールジュエリーさんと素敵な商品を開発されましたが、その経緯を教えていただけますか?

内波さん:久保さんがファッション部門のプラチナエイジストとして表彰された昨年(2016年)の受賞式に、弊社も協賛させていただいて、そのときステージで「ルーペコリエ」をご紹介させていただいたんです。それがきっかけですね。

久保さん:そうですね。私もルーペにはこだわりがあって、ネックレス型のルーペを作れたらいいなとずっと思っていたんですね。でもなかなかその機会もなくて、あきらめてはいなかったんですけど、ずっと前に進めなくてモヤモヤしていたんです。


ーーもともと久保さんもご興味があったんですね。

久保さん:そうなんです。昨年のあのチャンスを2人とも逃さなかったのはもう「縁(えにし)」ですね(笑)。だから私も(授賞式の)あのときは言葉も出ないくらい興奮してしまって(笑)

内波さん:京子さんがそれまでニコニコされていたのが、(ルーペコリエの紹介のときに)びっくりしたように目をキョトンとされて。その後、マネージャーさんといっしょに「見て見て! これ! 私これが欲しかったの!」と言ってくださって。私たちにとっても京子さんは憧れのドンピシャの存在でしたから、私のほうもビックリして何がなんだか分からないくらいでした(笑)

久保さん:そうそう、お互いにね(笑)

内波さん:その後、日を改めて京子さんのところにお伺いさせていただいて、ぜひこれを付けていただきたいとお話ししたんです。

久保さん:そのお話をいただいた時点で、私からも一緒に何かさせて欲しいってお話ししていました。内波さんも驚いてらしたと思うんですが、私としても「ぜひやらせてください!」って。

内波さん:私もクリエイティブディレクターとして、せっかく京子さんにご協力いただけるのだから、どんな形がいちばんいいかって頭を悩ませたんですよね。そこで、京子さんの良さを活かしながら、京子さんに憧れている私たちの世代が付けたいと思うものをぜひとも作っていただきたいと。そのとき私もいちファンから職人・ディレクターに切り替わりました(笑)


ーー憧れの存在だったのがビジネスパートナーに切り替わったんですね。

内波さん:はい。それからは京子さんの魅力や存在を活かせるものはないかと何度も打ち合わせさせていただいて、インタビューさせていただいたりもして、素晴らしい変化が起きるなっていう予感を感じながら制作してきました。

久保さん:ここに至るまでに何回も打ち合わせをしているんですけど、不思議とズレてるところを感じなかったんですよね。私がこうしたいって言うと、内波さんがそれを噛み砕いてこういうことねってわかりやすくしてくれて、すごくいいスピードで形になっていったと思います。


ーーお互いにうまい具合に回っていったんですね。

久保さん:そうですね、どこが無理でどこが無理じゃないかっていうのもはっきりとおっしゃってくださったので、ゴリ押しすることもなくて。でも、希望はちゃんと伝えて、私はこういうものを作りたい、名前もフランス語の「CHOU CHOU(シュシュ)」で、ブランディングもどういうふうにやっていくのかとか。あと、たまたまうちの息子がグラフィックデザイナーで一緒に参加させてもらったんですが、それも良かったんです。

        
ーーおお、なるほど!

内波さん:はい、私達は神戸で京子さんは東京で、その距離感を埋めるためにも息子さんの存在は大きかったんです。私もデザイナーなので同じデザイナー同士で話がわかりやすんですよね。ここを言えば分かるというのがとても助かりましたし、ご一緒していく途中で息子さんとのお仕事に間違いはないと確信できたし、いろいろ分担して進めることもできてよかったですね。

久保さん:仕事のやり方って普通はこうっていうのがあるけれど、私たちのやっていることは普通をやっても違うと思うし、ブランドを形にしていくにはどこから説明したらいいかっていうのはみんなそれぞれじゃないですか。言葉で説明したほうがいいのか、絵で説明したほうがいいのか、そういうところもうまく固まっていきました。

内波さん:レスポンスも速いんですよ、とっても(笑) おかげで本当に助かりました。私も長いことこういう仕事をしていると「おーい」みたいなこともあるんですけど、前のめりで駆け引きなく楽しんでやってくれているなっていうのは、モノづくりでは大事ですし、ありがたかったですね。


ーー内側から湧いてくるものがないと前のめりにはならないですよね。

久保さん:そうですね。やっぱり、前のめりで楽しめるってなかなかないじゃないですか。それが今回はモノをつくることが大好きな人が集まったっていう安心感でしょうね、そういうものを初めて味わいました。


ーー素晴らしい化学反応があったんですね。

久保さん:そうです、いい意味でありました。それに最近、なんだかいい流れが来ているみたいなんです。前のめりになっている私がまた何かを呼んでいるような気がして。こういうプロジェクトをやっていくと、どんどん人が巻き込まれてくるじゃないですか。それが、なんだかすごい人たちがどんどん集まってきてくれてるんです。


ーーおお、それはすごいですね。

久保さん:ある意味、内波さんとルーペを作るっていう単純なことなのかもしれないけど、それでもいろんな方々を巻き込むことによって自分も成長させられるし、新たにアイデアが湧いたりとか、久しぶりに連絡とれた方から「一緒に仕事したいんだけど」なんて言ってもらえたりとかもあって、何かすごく不思議な感じなんです。


ーー渦の中心に自分がいるような感じなんでしょうかね。

久保さん:中心というよりは、大きなうねり? 時代の流れに乗って一緒にうねっているような人たちと、不思議なワクワク感が生まれているんです。今回のCHOU CHOUをうまく着地できるといいなと思いながら、あのデザインがどうとかあのロゴがどうとか、「内波さんあれできた? できたの? 見せて! きゃあ素敵!」とか、もう大興奮なわけですよ(笑)

内波さん:私もワクワクしながら新幹線とか飛行機とか乗って行くんです。京子さん、これ開けて見たらどんな顔するかなとか。そうするとドンピシャで「きゃあ〜!」とか言ってもらえてこっちも「よーし! やった!」みたいな(笑)


ーーそれはもう本当に「よーし!」ですね!

久保さん:私もみんなに言いたくてしょうがないんだけど、企画段階でまだ言えなかったりして、でも周りでは「楽しみにしてるからね! じゃあ京子さんその前にこんなニットをデザインしてくれる?」みたいなお話もいただいたりして、何か不思議といい流れが来てますよね。

内波さん:いろいろなお話が次から次へと反響や成約があって、このCHOU CHOUとルーペコリエという形で、素敵な大人の女性の皆様にご希望に添える形をご提案できるということで、いい流れが来ていると思います。


ーーなるほど、このままその流れで行きたいですね。

内波さん:そうですね。でも最初はやっぱりしんどかったですよ。ひとつひとつ手作りなので、間に合うんだろうかとか。


ーーええ!? これ全部手作りなんですか!?

内波さん:そうなんです。鯖江の職人さんがアセテートのシートをドラムに回すところから、最後の磨き上げと仕上げまでひとつひとつ手作業でやっているんです。なので、大量の注文は最初からお受けできないという形なんです。


ーーそうだったんですね。

内波さん:鯖江の職人さんもね、「プラスジャック」という工房なんですけどすごく素晴らしいところなんです。3代目の津田功順さんは、小さいころからおじいちゃんに仕込まれて、「鉛筆持ってごはん食べられる人は一握りなんだからお前はこれを磨け」って言われて、小学校から帰ってきたら眼鏡を磨いていたっていう。


ーーそれはすごい!

内波さん:津田さんもまだ40歳になってないかな? 若い方なんですが、新しいものをやっていこう、鯖江の110年の伝統を眼鏡だけにこだわらずにやっていこう、という方なんですね。


ーーなるほど。

内波さん:それに私の会社もジュエリー会社なので、ビーズやパーツなどアクセサリーのパーツ材料で作ることはほとんど無いんですね。でも、時代の流れや女性のライフスタイルを提案してくためには、そういったことも楽しんでいかなきゃ! ということで。私も20代の頃はこんなこと言えなかったけど、経験を重ねてきたこのタイミングだからこそやれた部分もあります。

久保さん:私もルーペコリエというひとつの確立した素晴らしいデザインはそのままに、CHOU CHOUではカスタマイズしていく楽しさを広げていけたらいいなと思っているんですね。なので単独でチャームをつけたり、コリエを着けたいときにはコリエを着けたりして、使い勝手の良さをお客様自身で発展させていただければいいなと思っています。


ーーCHOU CHOUはカスタマイズがテーマでしたよね。

内波さん:はい。あと、ルーペコリエもCHOU CHOUもアセテートという素材で作っているんですが、これは綿花を原材料としていろんな調合をして、練りながら色の調合をして何度も延ばしてシートのように作るんですね。私たちは基本、イタリアのマッケリー社っていう1849年創業の会社のアセテートシートを使っています。アセテートはセルロースですので、肌との親和性があるんです。


ーー肌との親和性というと?

内波さん:皆さん眼鏡をかけていらっしゃいますが、異物感とか違和感というのは感じませんよね? 肌と同じ温度で馴染んでいるから気にならないんです。手に持っても持ち心地がいいとかね。それに100年後には土に還るんです。エコの観点からも素晴らしい素材と感じています。


ーーなるほど、言われてみれば確かに感じませんね。内波さん、素晴らしい商品のご紹介と開発裏話をありがとうございました。




2.アイデアは口に出す! 久保京子流プロデュース


ーーモデルをやりながら商品企画や開発をされているのは珍しいケースだと思うんですが、最初はどういうきっかけだったんですか?

久保さん:最初は通販カタログの「ディノス」だったんです。モデルの仕事をさせていただいていて、どういうわけか「京子さんが着たものが動く」という話になったんですね。それで周りから見ると、あの子はいつも楽しそうに仕事しているし、あーだこーだ「これ綺麗ですね! いいですね!」とか言ってくるし。そういうところがあったので、「あの子はモデル以外にも何かできるかもしれない」って私を気にかけてくださった人がいたんです。


ーーなるほど、もともと現場でいろいろアイデアは話していらしたんですね。

久保さん:そうなんです。それでやらせていただいたらやっぱり自分の中のこだわりがどんどん出てくるんです。例えばグレーといってもこっちのほうがシックで、こっちのグレーはこういうグレーだって、デザイン画までは描けないので言葉で説明したりして。


ーーどんどんアイデアが湧いてきたんですね。

久保さん:例えば最初に名前だけ決めちゃうんです。「脚長パンツ」とか。そうすると「あ、そのタイトルいいですね! いただきます!」っていって、「久保京子の脚長パンツ」っていうふうに決まったりして。だから、どっちかというと最初はキャプションを打っておいて、どうしていくか、どう落とし込んでいくのかが面白い感じでした。だから、そういうことやっているとボタン一個選ぶのもワクワクしちゃって、「え? このボタンって染められるんですか!?」みたいな(笑) 「じゃ、染めてくださいよ!」とか言って、でもそうすると「1個30円くらい値段上がっちゃいますよ?」とか言われて、でも私も「いいじゃないですかそこは(笑)」なんて言って(笑) 


ーーその様子、目に浮かびます(笑)

久保さん:そうやってワクワクして仕事をさせてもらっていると、次に「久保さん、時計なんか興味ない?」とか言われるんです。でも私、実は時計はフェイスよりも中身のほうが好きで、中がどういうふうに動くのかとかずーっと見てられるくらいなんです(笑) そのときは結局、女性の時計を女性が企画していくということでやらせていただいたんですけどね。


ーー女性で時計の中身に興味って、珍しいですね(笑)

久保さん:そうなんですよね。それで実際には、どういうシーンで時計を着けてもらうかというところを想像しながらコンセプト作りをしていって、デザインに落としていったんです。例えば「THE TOKYO」ってコンセプトを付けたとしたら、東京のどこの場所の何時っていうところをみんなで出していくんですね。これは白金で3時15分とか言って、じゃなんとなく白い感じ? みたいな、もしくは、なんとなくピンクゴールド? とか、そうやってみんなで言い合って作っていったんです。


ーー面白そうですね!

久保さん:面白かったですよ! 私の場合、自分がデザインするとかコンセプトを立てるとか、どこかに特化してそれだけをやっていくというよりも、混ぜこぜ状態でいろんなことをやりながら作っていくのが多かったですね。


ーーなるほど、ちなみに男性だと小さい頃にいろんなもの分解して怒られるっていうのをよく聞くんですが、もしかして久保さんもそうだったんですか?

久保さん:分解して喜んで、組み立てられなくて怒られるってしょっちゅうでした(笑)


ーーやっぱり!!(笑)ちなみに何を分解してました?

久保さん:やっぱりラジオですね(笑) はんだごてで付けてみたりとか、非常に鉄モノが好きでしたね。造船所なんて言ったら大喜びするくらい。鉄女(テツジョ)でした(笑)


ーーわあ、そうだったんですね!

久保さん:そうですね、だからすごく大きな鉄が曲がるとか、鉄なのにちっちゃい歯車を作るとか、そういうのに興奮したりして(笑) モデルをするようになっても、自分も花の写真を撮りたいって思って撮るとすごい接写が多かったりして、何か並びがキレイとか構造がどうなってるとか、そういうのが好きでしたね。


ーーなるほど。

久保さん:私、何か商品を作って莫大にお金を稼ごうとかそういうのはないんですけど、やりたいことをどんどん言って、そうすると「それ以上はもう色を入れないでください」って怒られることはありますね(笑) でもそのときは、言うだけ言ってみて、通ったらラッキーみたいな感じで言ってます。


ーーひとつの職業を長く続けることってそれだけでも大変だと思いますが、モデルとしても、商品開発や企画をする経営者としても、これだけずっとやられているわけですよね。何か自分なりに秘訣というか、これがあったからできているというのはありますか?

久保さん:やっぱり能天気だから(笑) まあ、きっと口に出して言っているのが大きいと思います。いろんなお話を持ってきてくださる方がいらして、でもなぜ持ってきてくださるかと言うと、私がちょこちょこ言ってるからだと思うんですよね。


ーーそれは意図的に言ってるんですか?それとも自然に言ってたというところですか?

久保さん:これは言っちゃってるんだと思います。もう独り言みたいな感覚で、何気ない普段のおしゃべりの中で言ってるんだと思うんです。女優の仕事をさせていただくときも、私は女優になりたいっていう言い方はしないで、女優の仕事も面白そうですよね〜って言っちゃってるような。だから言ってかなえるという形ですよね。


ーー意図的に言うのではなく、自然になんですね。

久保さん:そうですね、私の場合はそれでちょこちょこといろんな人に話してるんだと思います。



3.思ったらやる。理由は後付けでも、何でもやってみる。


ーーまず言ってみるとかやってみるとか、そういうところは子どものころからだったんですか?

久保さん:そうですね、小さいころからじっとしてられないタイプの人間で、並んで歩けって言われても気づいたらはぐれてるとか、そういうタイプで(笑) 自分が気になったらもう行っちゃうんです。母はもう「そういう子だから」っていって自由にさせてくれましたね。


ーー心の広いお母さんだったんですね。

久保さん:モデルの仕事をする前も、母ひとり子ひとりだったので、早く食べていけるようにならないといけないから美容師になるって言ってたんです。美容の学校にいって美容師の免許を取って、さあ美容師になるぞ! と思ったら「モデルしませんか?」って言われて、そしたら私も「いいですね〜!」なんて言っちゃって(笑) それから理由なんて後付けで、母に「ごめんなさい、美容師1年だけ休みます」って言って、でもやってみたらおかしい、売れない、ってなって(笑)


ーーすぐには開花しなかったんですよね。

久保さん:当時はキレイでスタイルがよくて美人で、外国人みたいなモデルさんとかハーフのモデルさんが全盛だったんです。だから、そういうふうに見えるようにメイクしたりとか、それでもオーディションは落ちるし、全然うまくいかないしってことが続いたんですけど。それで、なんでだろうと思いながら自分で創意工夫をしていって、時にはオーディション呼ばれてもいないのに行っちゃったりして。


ーー呼ばれていないオーディションに行っちゃったんですか?

久保さん:そうそう(笑) 友達のA子ちゃんが呼ばれてなんで私が呼ばれないんだろうって思って、友達の顔してくっついて行って、「すいません、呼ばれてないんですけど見てください!」って言って見てもらって、そういうのもおもしろおかしくやってみたりしてね。たまたま受かっちゃったりして(笑)


ーーえ!? 受かっちゃったんですか!?

久保さん:そう(笑) まあ、どうせあんた無理って言われるんだったら、それで泣いてたってしょうがないから、楽しんでいかないとなって思って。もちろん悔しいのもありますけど、それを悔しいって出すよりも、悔しいけど楽しいよって生きてったほうがいいよねって思ってね。


ーー悔しいけど楽しいよねって、自然に思える人と、思おうとする人と2パターンありますよね? 久保さんは自然に思えたんですか?

久保さん:それは、自分のエネルギーが小さいときはダメで、自分のエネルギーが何らかの形で大きくなっているときにそういう人になっていくんですよね。誰だっていつもエネルギーが外へ向いてるわけじゃないじゃないですか。もうダメだってこともあるし、でもそれがあった上で、だけど明るくやっていこうよって思うことはすごく大事だと思いますよね。


ーーなるほど、そうですよね。

久保さん:だからその頃、能天気だよね〜って言われることも多かったんですけど、そういうことを踏まえたうえで「いいじゃん、今日の焼肉が美味しけりゃ!」みたいな(笑) そんなふうにして自分がどこに向かっていくのか全然わからないときでもやってましたね。


ーー確かに、今日の焼肉が美味しければ元気が出ます(笑)

久保さん:あと、その頃はよくね、3つのSはやったほうがいいなって言ってたんです。サントリーさんでしょ、セイコーさんでしょ、そして集英社さん、みたいなね。まあ無理でしょって思いながらも、でも口には出して言っていたのが、結局ずいぶん時間が経ってからですけど全部やれたんです。


ーー3つのSはやれたんですね!

久保さん:そうなんです。まあ、その間に私も結婚や出産があったりしたんですけど、でも辞めようとかそういう気はどうもなかったですね。ずっとやらせていただいてきてますから、本当にありがたいです。




4.モデルとしての下積み、そして「LEE」メインモデルへ


ーーモデルの仕事も初期のころはすぐに開花しなかったそうですが、どんな感じだったんですか?

久保さん:いちばん最初にモデルの仕事がなかった頃は、土井勝さんのテレビジョッキーっていう番組があったんですけど、それでエドウィンのジーンズと白いギターを出演者に運ぶっていうアルバイトを1年間してたんです(笑)


ーーええ! そうなんですか!

久保さん:そうなんです。足だけしか映らないんですけどね。よく1年間も楽しんでやってたなあって思うんですが、モデルの仕事があまりにもなかったので。すべてが順風満帆に進んできたっていうわけではまったくなかったですから、例えばモデルの仕事って言われてこの洋服を着てくださいって言われて「何するんですか?」って聞いたら銀座一丁目でチラシ撒いてきてくださいって言われてチラシ配ったりもして。


ーーそういうお仕事もあったんですか!

久保さん:そうなんです。ほかにもこれってモデルの仕事かな? って思うようなこともあったんですけど、やっぱりやりたいことはやりたいから、自分のブックを持って伊勢丹さんの広報部に出かけていって「見てください!」ってお願いしに行ったりとかもしましたね。マネージャーさんに任せっきりじゃ始まらないから直談判で行って。


ーー自ら動いたんですね。

久保さん:そう。でもその2年後に伊勢丹さんでお仕事させていただくことがあって、そのときに「そういえば前に来てたよね?」って言われて「はい! 来てましたよ!」なんていうこともありました。その頃は「an-an」とか雑誌に出るようになり始めていたので、そのときにみんなどんどん合致していったのがありましたね。


ーー撒いた種が実り始めたんですね。

久保さん:そうですね、「ちょっと変わった子だな、自分一人で来てたし」みたいなところから一本お仕事をもらってやってみると、まあいっつも笑ってるし明るいし、楽しんで仕事をしてる子だなあっていうのがあって、そうすると次は「ちょっと難しい洋服なんだけどクボキョーに来てもらおう」って話になって、だからすごくリピートしてもらうことが多かったですね。


ーーなるほど、現場で信頼されるモデルさんになっていったんですね。

久保さん:それで馴染んでいって、これ難しい服なんだけどって言われても私は「大丈夫! 何とかする!」って言ってやって。そのころ雑誌でも、集英社の「MORE」がやりたくって行ってみたら「ウチのタイプじゃない」ってバッサリ言われて、私も「ですよね〜」なんて言ってたんですが、その次の年に「LEE」が出たときには、すごく恐い編集長だったんですけど呼んでもらえたんです。


ーーおお、お声がかかったんですね。

久保さん:はい。LEEってどんな雑誌かっていうと、MOREのようにお嬢様とかOL系のものじゃなく、生活の中の洋服っていうことを主体とする感じで、方向性が違ったんですね。でも最初はやっぱり混沌としてて、一回呼んでもらえたんですが「次はないだろうな」って思ったらその後も結局やらせていただけて。


ーーおお、いいですね。

久保さん:そのうち編集長も「生活感を雑誌でどう表現するか」を掴んで、「久保ちゃん、それポーズになっちゃってるよ」とか言われるようになって。私としては「ポーズにならないポーズって何なんだ?」みたいに思ったりして。


ーーそれは難しそうです。

久保さん:普通だったらこういうコーディネートはしないだろうっていうのを編集長もスタイリストさんに言ったり、そのポーズはいらない、それはこの場面にはいらないとか、どんどんやっていくんですよね。でも、それを外したらあまりにも生活感がなさすぎるから、生活の楽しさをプラスαするにはこうしようとか、どんどん表現が進んでいって。それで本を持ってみたり、何かの途中の動作とか、そういうのが生まれていったんです。


ーーなるほど、そうやって形になっていくんですね。

久保さん:はい。それでLEEがあそこまでのものになったんです。あとこれは驚きなんですけど、読者の方がみんなページを覚えてるんですよ! いまでも「久保さんが自転車に乗って振り返ってるあのページ、花柄のワンピースを着てて、髪の毛はこれくらいで」とか、全部はっきり覚えてるの。


ーーそれはすごいですね!

久保さん:そうなんです。普通、ページもモデルも覚えてないじゃないですか。それをモデルもページも覚えてくださっていて、あの時期のあの雑誌で、あの髪型が素敵で真似してみたとかね。あの仕事は単なるモデルっていうよりも、すごくクリエイティブな仕事だったんだなあって思います。


ーー僕も今日少しご一緒させていただいて分かって来ましたが、今回のCHOU CHOUの制作のように、当時もいろいろ言ってらしたんですね、きっと。

久保さん:そうですね、言ってましたね。「あらワンちゃんかわいいね、どういうふうにしたらいいの? 抱いたらいいの? カゴに入れたらいいの? 好きにしていいなら頭に乗っけちゃうよ!?」みたいな(笑) そういうように1ページ1ページ作ってる感覚がすごくあって、どういうふうに着るのか、背景は何なのか、どういう生活をしているのか、そういうことを考えながらポージングをやっていくなかで、女優っていう形にも結びついていったんです。


ーーなるほど、確かにつながっていきますね。

久保さん:そういう意味では、毎回毎回ただのモデルだけって思ったことがないんだと思うんですよね。何か一緒に参加させてもらっている、何かを作るとか、何かをコミュニケーションするために私はこの仕事をしているって思えるようになってからは特に充実しましたね。




5.些細なことも喜び。仲間は同志。


ーー久保さんはいろんなお仕事をされていますが、こういう瞬間がいちばん嬉しいっていうことはありますか?

久保さん:いつでも嬉しいんですけどね(笑) でも、ある意味、私って「嬉しい」を人に刷り込んでいけるんですよね。初めて仕事をご一緒する人にも、最初はクボキョーってどんな人なんだろうって思ったり、中には構えたりする人もいると思うんです。そういう人とでもどれだけ本音で話ができるかとか、本音でいいね、これよくないねって言えるかがすごく仕事に関わってくると思うんです。だから、ちょっといたずらをするとか(笑)、そうやって馴染んでいくんですよね。


ーーいたずらって(笑)

久保さん:そう(笑) でも、そうしていろんな人とうまく馴染めたときにはめちゃくちゃ嬉しいですね。馴染めたことでどんどんアイデアが湧いたりするし。


ーー確かに、通じ合えたときの喜びってありますね。

久保さん:嬉しいっていうのはどんなことでもありますよね。自宅でゆっくりしてても、お花のいい写真が撮れたりしても嬉しいし。自分で面白がれることをいくつ持っていられるか、一緒に面白がれる人がいるとか、どれだけ人と共感できるかとかすごく大切だと思いますし、あんまり愚痴も言わないほうだと思います。


ーーなるほど。

久保さん:あと、やっぱりプラチナエイジっていう考え方、受賞させていただけた立場について先ほど改めてご説明いただきましたけれど、その通りだと思うんですよね。これからが楽しむのにいちばんの時期だよねって言える人ほど幸せだと思いますし、いやいやもう年だからって言ってしまうと本当に年になっちゃいますよね。


ーーそうですね。

久保さん:私も先輩方がすごく輝いているから刺激をたくさんいただけますし、こうやって一緒に仕事をして、同じ感性で物事を見て良い悪いを言える同志がいてくれるのもありがたいですし、本当に恵まれているなと思います。


ーーいまの同志っていう言葉は、言われるとすごく嬉しいですね。

久保さん:そうです。私にとって同じ1ページを作る人たちはみんな役割が違うだけの話で、同じページを同じ思いで作っていくわけだから、そうなったらもう同志ですよね。アシスタントの子だってもちろん、大切な同志です。


ーーどんな人でも同じということですね。

久保さん:そう、だからいま一緒にやっている、例えばカメラマンさんだっていろんな思いをしてきているわけですよね。浮き沈みもあっただろうし、その経験のなかで何を学んできたかってすごく深いと思うんです。そういう人たちがいて、なおかつ若いデザイナーさんがいて、若いスタイリストさんがいて、そこにけっこう年のいったメイクさんがいたりして、そうするとすごく面白いバランスなんですよね。みんながみんなそれぞれの距離感できっちり自分の仕事をこなしているって思うと、私はそれだけでもう感動ですよね、すごいなあって思います。


ーーまさしく久保さんを中心にしてあらゆる世代が1つになっている世界がイメージできますね。

久保さん:そうですか!? それはもう素敵ですね! 嬉しい! やっぱり、何かそこにはきちんとエネルギーの交換ができてないといいものも生まれないし、まわりみんなをスーパースターだって思いながら仕事ができるのはすごく幸せなことですね。


ーーそうですね。これからもまわりのスーパースターの皆様と一緒に、ますます活躍なさってください!本日はありがとうございました!





編集後記

インタビュー当日は、久保さんも分刻みのスケジュールで、たいへんおいそがしい様子でした。レストランでのお披露目ランチ会にはたくさんの関係者がいらしていて、こちらのインタビュー後も別のお打ち合わせがあって、慌ただしくされていました。

でも、どの瞬間でも久保さんは笑顔で、背筋をまっすぐ伸ばして、誰にでも真正面から心を向けて、一生懸命にお話しされていました。まさしく、初対面でも、誰にでも。

苦労もしたし、悔しい思いもしたし、いまでもそれはなくならないけど、それでも全部をぐっと飲み込んで、そのうえでスッキリと笑顔で、大きな声で笑っている。

久保京子さんは、その生き方で、その笑顔で、知ってか知らずか周りの人たちを幸せにしていました。そしてその幸せの輪の中に、また一緒に入りたいと思ってしまうのです。

明るく、元気で、誰とでも笑顔で打ち解ける、久保京子さん。
プラチナエイジ振興協会では、久保京子さんのますますのご活躍を応援してまいります。

(インタビュー・安 憲二郎/撮影・河野 正樹(Matthewmark)/2017.6.21)


6.久保京子さんプロデュースのおしゃれルーペ「CHOU CHOU(シュシュ)」


CHOU CHOU オフィシャルサイト

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